どうやってミニ起業家を育成するのか?(起業家育成の方法論)

ときがわカンパニー代表の関根です。

ときがわ町起業支援施設 iofficeは、ミニ起業家が「集い、育ち、稼ぐ」場です。

では、どうすれば、ミニ起業家が育っていくのでしょうか?

これまで、東京大学の大学院や企業研修の仕事を通じて学んだこと、そして自身の起業経験や他者の起業支援を行ってきた中で得たことを「ミニ起業家育成の方法論」として、ここにまとめてみようと思います。

(参考:東大中原先生と後輩起業家からのメッセージ

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1.どうやって How

参考になるのが、4つの概念です。

(1)「70:20:10の法則」

ざっくり言うと、人は「経験から70%、他者から20%、研修から10%」学ぶという考え方です。

(参考:「経験学習とリーダーシップ」勉強会()()@東大)

米国CCLが提示したこの数字そのものには反論もあり、米国DDIは「55:25:20」という数字を主張しています。

どちらにしても、人の学習には「経験」が、「研修」より重要だということです。

多くの起業支援は、「起業セミナー」という「集合研修」の形をとります。これは、起業家の学習においては、10~20%程の力しかもたないかもしれません。

起業家の学習においても、経験が50~70%、他者が20~25%の重要性をもつと言えるでしょう。

これら「70:20:10の法則」の中で、私が起業支援にとって不足していると感じるのは、「他者」の部分です。ミニ起業家は、「他者」から学ぶ機会、特に、自分よりちょっと経験を積んだ「先輩起業家」から学ぶ機会が少ないのです。

(2)「OffJT・OJT・SD」

これは企業内人材育成でよく語られる「育成方法の区分」です。

「OffJT:Off the Job Training 集合研修」「OJT:On the Job Training 現場指導」「SD:Self Development 自己啓発」

このうち起業支援においては「OffJT」である「研修・セミナー」という方法が良く取られます。ただ、これら「OffJT」は、先ほどの「70:20:10の法則」で言うと、10~20%ぐらいしか影響力がありません。

私は、ミニ起業家にとっては「OffJT集合研修」よりも、「OJT現場指導」と「SD自己啓発」のほうが重要だと思っています。

まず、ミニ起業家は「SD自己啓発」として、本を読むべきです。

残念なことに、多くのミニ起業家は「起業・経営」のヒントの宝庫であるビジネス書を読んでいません。起業セミナーに行ったり、人に質問する前に、本を読めば学べることは多くあります。

ミニ起業家は、自分のお金と時間を「SD自己啓発」である読書に投資すべきです。それは必ず大きなリターンとして返ってきます。

(参考:ミニ起業家向けの本屋「i棚本屋(ひとたなほんや)」

次に、ミニ起業家は、先輩起業家から「OJT現場指導」を受けられると、多くの学びを得られます。

・先輩起業家の営業活動に同行したり
・お客様と話す場面に同席させてもらったり
・先輩起業家から、自らのお客様対応について指摘をもらったり

といった「OJT現場指導」を受けられると、ミニ起業家は伸びます。

しかし、そういった「OJT現場指導」を受けられるミニ起業家は少ないでしょう。なぜなら、ミニ起業家は、基本的に一人で仕事をしているため、そういう周囲のかかわりが少ないからです。

これは、次の「ピープル軸」の話にも関わってきます。

(3)「経験軸」と「ピープル軸」

これは、企業内での部下育成で使われている理論です。

「経験軸」は、部下は業務経験から学び成長するので、上司は適切な業務経験(特に、ストレッチ経験)を与えるべきとするものです。

もうひとつ、部下は「職場で様々な関わりを得られる」と学び、成長すると考えるのが「ピープル軸」です。そのため、上司は職場内外で、部下が様々な他者と関わりを持てるよう手助けすべきとしています。

(参考:東京大学 中原先生の「経営学習論」)

(出典:フィードバック入門(中原2017)p87)

ミニ起業家にとって不足しがちなのは「ピープル軸」です。

そもそも、組織という人の集まりを出てしまっている訳ですから、周囲に関わる人が少なくなります。それを補うために、各種交流会や団体に属したりするのでしょうが、それでもその関わりは、浅く広いものになりがちでしょう。

職場内の上司、部下の関係と違って、ミニ起業家は、狭く濃い「師弟関係」を作りづらいのです。

(4)エフェクチュエーション(実効論)

起業家は生まれ持った資質では無く、「熟達」によって、起業家のやり方を獲得できるとする考え方です。

(参考:東京大学大学院授業「経営組織論」)

熟達した起業家は、「手段」からスタートし、今あるものを使って何ができるだろうかを考えます。それが、エフェクチュエーション(実効論)です。

それに対して、「結果」から逆算し、これを達成するために何をすればよいかを考えるのが、コーゼーション(因果論)です。ビジネススクールや、起業セミナーで学ぶのは、基本的にこのコーゼーションです。

市場を定義し、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングを考えていきます。そして、これだけの市場があるのだから、このぐらいの売上が見込めるはずだと考えます。

ところが、実際にはそんなに上手くいきません。これら「予測的戦略」だけではなく、「非予測的戦略」に基づき考え、行動するのが、熟達した起業家なのです。

熟達した起業家になるためには、コーゼーションだけではなく、エフェクチュエーションも必要になりますし、熟達するに足る「経験」と「時間」が必要になります。

まだ、経験も時間経過も少ない独立したてのミニ起業家にとって、コーゼーションは起業セミナー等で学べるかもしれませんが、エフェクチュエーションを学ぶ機会が少ないのです。

仮に、周囲に「熟達した起業家」がいれば、エフェクチュエーションに基づき、指導してもらえるかもしれませんが、そういう機会もなかなかありません。

以上、4つの概念「70:20:10の法則」「OffJT・OJT・SD」「経験軸とピープル軸」「エフェクチュエーション」を見た上で、私自身は、起業支援に足りないのは、「先輩起業家の関わり」だと考えています。

起業支援を行う「先輩起業家」には、3つの役割が求められます。

「発注者、指導者、実践者」です。詳細は、別の記事に書きましたので省きますが、先ほど述べた「OJT現場指導」ができる先輩起業家と関われたら、ミニ起業家は伸びます。

既存の起業支援ですと、士業の先生方や、企業(特に金融機関)のOBの方々が、アドバイザーとして、起業の相談窓口にいらっしゃることがあります。

ただ、彼らは、指導者にはなれても、「発注者」「実践者」にはなりにくいでしょう。

独立したてのミニ起業家にとって、一番参考になるのは、同じように起業し、ちょっと先を行っている先輩起業家なのです。

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2.何を What

次に、ミニ起業家に「何を」教えればよいのでしょうか?

私自身は、(1)ランチェスター戦略 (2)利益モデル (3)5つの質問 のみで十分だと思っています。

これらは、「ミニ起業家 必読の本」として紹介しています。 

これら3冊の本を基に、先輩起業家が指導していけば、ミニ起業家は育ちます。

ミニ起業家が学ぶべきは、事業計画の書き方や財務諸表の読み方ではありません。それは、起業してしばらく経ってから学べばよいことです。

初期段階に必要なのは「顧客獲得と維持の方法」です。それを学ぶために必要なのが、上記3つなのです。

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3.何故 Why

それでは、「何故」先輩起業家は、ミニ起業家を手助けするのでしょうか?

自分の仕事で忙しい中、なぜ、他人の世話をやくのでしょうか。

実利的には、ミニ起業家が育つことで、信頼できる外注先が増えることや、そういう活動を行うことによって、別の仕事が生まれるという可能性もあるでしょう。

あるいは、組織を出た先輩起業家にとって、後輩を育てるということは、「世代継承性」という中年期の発達課題を解決する手段となっているのかもしれません。

私自身は、上記に加えて、3つの理由があったと思っています。

一つ目は、自分も、先輩起業家に教わってきたからです。私自身、2005年に独立する前から、多くの方々にお力添え頂いてきました。

その中でも、岡村さんという先輩起業家が、私にとってのメンターです。独立前から色々とご指導いただき、今も年1回ぐらいですがお会いして、色々教わっています。

岡村さんは、まさに「発注者・指導者・実践者」であり、独立当初の私に、様々なご支援を下さいました。岡村さんに「してもらったこと」を、後から続く後輩起業家にしてあげたい、と思っています。

(これは、メンター研究で言うところの「メンタリング・チェーン」だと思っています。)

二つ目に、「自分たちだけが幸せでよいのか?」という問いに向き合ったためです。特に、2011年3月の東日本大震災を通じて、この問いに向き合いました。(当時、書いたブログ) 

自分にできることは限られていますが、少なくとも、後から続くミニ起業家に、何かできるのではないかと思ったのが、ミニ起業家支援をしている理由です。

三つ目に、ミニ起業家を増やすことで「子供達の選択肢を増やしたい」という想いがあります。

働くというと、「都会に行って企業に勤める」か「地元で役場に勤める」ぐらいのイメージしかない、ときがわ町の子供達に、「ミニ起業」という選択肢もあることを示したいと思っています。

ときがわ町に、ちょっと先輩のミニ起業家が増えれば・・・
そういう働き方もあるんだ、と子供達が思ってくれれば・・・

それは、大きな可能性につながってくると思っています。

「ときがわ町に、人が集まり、仕事がうまれる」

これらが、私がちょこっと先輩起業家として、ミニ起業家を支援している理由です。

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以上、起業家育成の「How、What、Why」を考えたうえで、私自身は、ときがわカンパニー代表として、ミニ起業家に対して、精一杯の支援をしていきたいと思っています。

皆さんのご支援、ご協力を賜れましたら幸いです。今後ともよろしくお願いします。

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